「親に介護が必要になったら、自分の貯金はどれくらい減るのだろう」

40代の家計相談で、最近とくに増えている質問です。子どもの教育費がまだ続いていて、自分の老後資金もほとんど積み上がっていない。そこに親の介護まで重なったら、どこから手をつければいいのか。夜にぐるぐると同じ計算をしてしまう方が多くいらっしゃいます。

結論から言うと、親の介護費は原則として親のお金で払い、自分の老後資金は子どもの教育費とは別の口座で守る。この2つを決めるだけで、不安の半分は片づきます。

この記事では、「40代で親の介護リスクが見え始めた」「自分の老後資金が不安」「子どもの教育費も並行で続いている」という家庭に向けて、晩産・晩婚で40代を迎えたご夫婦のお金問題を専門にしているFPの視点で、整理の順番を解説します。

この記事の結論

40代で親の介護と老後資金の不安を整理する順番は、次の通りです。

  • 親の介護費は、原則として親のお金(年金・預貯金・持ち家)で払う
  • 子が出すお金は、上限を先に決めてから動く
  • 親に「3つの数字」(年金月額・預貯金・持ち家)を聞いておく
  • 自分の老後資金は、子どもの教育費とは別の口座で守る
  • 教育費ピークと介護の重なる年を、紙に書き出して可視化する

大切なのは、不安の正体を一度数字にすることです。出してみると、思っていたよりやれることが残っています。

40代に「親の介護」と「老後資金」が同時に来る理由

40代の家計には、いくつもの予定が同じ時期にぶつかります。

子どもが中学・高校・大学に上がる時期と、自分たちの収入がピークから少しずつ下がる時期と、親が70代に入って介護のリスクが見えてくる時期。これが10年ほどの間に重なります。

内閣府の調査でも、40代は教育と介護を同時に抱える「ダブルケア予備軍」として整理されています。実際に相談に来られる方の口からは、

  • 「子どもの大学費用も気になる」
  • 「自分の老後資金もまだゼロに近い」
  • 「そこに親の介護まで重なったら、どこから手をつけたらいいかわからない」

という言葉が、ほぼセットで出てきます。

これは性格の問題でも、計画性の問題でもありません。40代という時期の構造が、もともと重なりやすいだけです。

三重苦の構造を年表で見る

ご自身の家庭で、次の3つを書き出してみてください。

  • 上の子・下の子の大学進学年(教育費ピークの位置)
  • ご自身と配偶者の役職定年・定年の年(収入が下がる位置)
  • 親が80歳になる年(介護リスクが高まる位置)

たとえば、いま46歳で上のお子さんが11歳、親が72歳の家庭なら、おおむね9〜12年後にこの3つが重なります。お子さんが大学2年、ご自身が55歳前後、親が81歳。3つが同じ年に来るタイミングが、40代の家計でいちばんお金が動く時期です。

ここを「不安なまま放置する」のと「事前に数字にする」のとでは、その後の動き方が全く違ってきます。

「親のお金で親の介護をする」が正解な理由

ここがこの記事のいちばん大事な話です。

親の介護費は、まず親のお金から払う。順番としては、次のように組み立てます。

1. 親の年金 2. 親の預貯金・保険 3. 親の持ち家(売却・賃貸・リバースモーゲージなど) 4. 公的制度(介護保険・高額介護サービス費・特別養護老人ホームなど)

子の貯金から出すのは、ここまでで足りないとき、しかも家族で話し合ったあとです。

子が自分の老後資金を削るとどうなるか

「親孝行のつもりで」と、子が自分の老後資金を介護費に回し続けると、何が起きるでしょうか。

数年後、ご自身が60代から70代に入ったときに、今度はご自身が介護される側に回ります。そのときに支えるのは、今のお子さんたちです。お子さんたちは、ちょうど家を買い、子育てをして、自分たちの老後資金を準備し始めている時期です。

つまり、親のお金で親の介護を完結させないと、その負担はお子さん世代に持ち越されます。3世代にわたって同じ問題が繰り返されてしまうのです。

「親のお金で親の介護をする」は、冷たい話に聞こえるかもしれません。でも、これは罪悪感の問題ではなく、3世代の生活を守るための設計の話です。罪悪感ではなく落ち着いて決めていくことが、40代の家計を救う大事な一歩です。

親の資産がほぼない場合はどうするか

「親のお金で」と言われても、親の年金が少なく貯蓄もほとんどない、というケースもあります。

この場合は、最初から公的制度の活用を前提に組み立てます。介護保険サービスを上限まで使い、所得に応じた減免(高額介護サービス費)を申請し、必要なら特別養護老人ホーム(特養)への入所を視野に入れる。「親のお金が足りないから子が出す」のではなく、「親のお金が足りないから制度で補う」という発想に切り替えてください。

子が出すのは、それでも足りない部分に限る。この線を引いておくと、いざというときに迷わずに済みます。

親の介護費は実際いくらかかる?

不安を数字に変えるために、介護費の平均を置いておきます。

生命保険文化センターの調査によると、介護にかかった月々の費用の平均は約8万円。介護期間の平均は約5年です。

ざっくり計算すると、

8万円 × 12か月 × 5年 = 480万円

これに、住宅改修や介護用ベッドなど一時費用が80万円ほど乗ります。合計で約560万円というのが、ひとつの目安です。

在宅介護と施設介護の費用差

同じ介護でも、在宅か施設かで費用は大きく変わります。

  • 在宅介護: 月平均 約5万円。家族の負担(時間・体力)が大きい一方で、現金支出は抑えやすい
  • 施設介護: 月平均 約12万円。介護付き有料老人ホームは月15万〜30万円のレンジ。特別養護老人ホーム(特養)は所得に応じて月7万〜15万円程度

施設の中でも、特別養護老人ホームは原則として要介護3以上が対象で、入所待ちがあることが多いです。一方で、所得に応じた減免があるため、年金収入だけの親でも入所しやすい仕組みになっています。

一時費用の内訳

5年間の総額に含まれない、最初の80万円の内訳は次のようなものです。

  • 介護用ベッド・車椅子の購入またはレンタル
  • 手すりの設置・段差の解消などの住宅改修
  • ポータブルトイレなどの福祉用具
  • 介護開始時の各種手続き費用

このうち、住宅改修は介護保険から最大20万円の補助があり、福祉用具は1割〜3割の自己負担でレンタルできます。最初の80万円も、制度を使えば実質負担はもっと小さくなります。

親の年金で介護費を賄えるかチェック

親の介護費を親のお金で賄えるかどうかは、年金額で大きく変わります。代表的な2つのケースを置いておきます。

ケース1:賄えるパターン

  • 親の年金: 月15万円(夫婦合算の厚生年金)
  • 介護費: 月10万円(在宅と施設の中間)
  • 親の生活費: 月5万円

このケースなら、5年間の介護費(合計600万円)は親の年金だけで賄えます。預貯金や持ち家にも手をつけずに済むため、ご自身の家計には直接の影響が出ません。

ケース2:賄えないパターン

  • 親の年金: 月8万円(国民年金中心)
  • 介護費: 月8万円
  • 親の生活費: 月5万円

このケースは、毎月5万円の不足が出ます。5年で約300万円の不足です。

ここで判断するのは、

  • 親の預貯金で何年分カバーできるか
  • 持ち家を売却・賃貸に出せるか
  • リバースモーゲージや任意後見の選択肢はあるか
  • 公的制度(高額介護サービス費・特養)でどこまで減らせるか

この4つを順番に確認し、それでも足りない部分だけを兄弟姉妹で分担する形が現実的です。

「賄えない場合」の家族会議の組み方

親の年金で賄えないと分かった時点で、できるだけ早く家族会議を開くことをおすすめします。

集まる前に、次の数字をまとめておくとスムーズです。

  • 親の年金月額・預貯金額・持ち家の評価額
  • 想定される介護費(在宅か施設か)
  • 公的制度を使った場合の月の不足額
  • 兄弟姉妹それぞれの家計状況(出せる金額の上限)

会議では「いくら出せるか」だけでなく、「現金を出す人」「時間を出す人」の役割分担まで決めると、後々のトラブルが減ります。

親に聞いておきたい3つの数字

「親のお金で親の介護」と決めても、肝心の親のお金がわからないと動けません。聞いておきたい数字は3つだけです。

1. 年金は月いくら受け取っているか(手取り額・夫婦合算で) 2. 預貯金と保険は合わせていくらか(証券・投資信託も含む) 3. 持ち家はあるか。あるなら売る・貸す・住み続けるのどれを希望しているか

親にお金の話を切り出す3つのコツ

「お金の話を聞くのは気が引ける」と感じる方が大半です。次の3つを試してみてください。

コツ1: 自分の話から入る

「私たちも老後の準備を始めたから、お父さんお母さんのも参考にさせて」

このひと言で、空気がだいぶ柔らかくなります。親を心配しているのではなく、自分のために聞いている、というトーンで入るのが鉄則です。

コツ2: 紙とペンを用意して「メモさせて」と言う

口頭で聞くだけだと、親も身構えてしまいます。「あとで兄弟と共有したいから、メモさせてね」と紙を出すと、親も整理して話してくれます。

コツ3: 「もしものとき」のためと伝える

「元気なうちに聞いておきたい」「いざというとき慌てないように」というフレーズを使うと、自然に話せます。介護や相続を直接持ち出さなくても、結果として同じ情報が手に入ります。

聞いた数字は、メモにして残しておいてください。兄弟姉妹がいるなら、その場で共有しておくと、いざというときの家族会議が早く進みます。

自分の老後資金を守る3STEP

親の数字がわかったら、次は自分たちの家計の整理です。

STEP1:3つのお金を口座で分ける

教育費、生活防衛資金、老後資金。この3つを同じ口座に入れたままだと、どれを使っているか自分でも分からなくなります。

通帳を分けるだけで、毎月の判断が早くなります。具体的には、

  • メイン口座: 生活費・住宅ローン引き落とし用
  • 教育費口座: 子どもの大学費用・受験費用専用
  • 生活防衛資金口座: 半年〜1年分の生活費を入れて手をつけない
  • 老後資金口座: NISA・iDeCo・退職金の受け皿

最低でもこの4つに分けると、「いま削れるのはどのお金か」がひと目で分かります。

STEP2:親の介護費に出せる上限を先に決める

たとえば「月3万円までを2年間」のように、出せる上限を先に決めます。

決めずに「必要なら出す」とすると、際限なく削れてしまいます。上限を超える支出は、原則として親のお金または公的制度で対応する、という線を家族で共有しておくことが大事です。

兄弟姉妹がいるなら、現金を出す人と、時間を出す人で役割を分けるのも有効です。

STEP3:教育費ピークと介護の重なる年を見える化する

たとえば、上の子が大学2年、下の子が高校1年、親が80歳。

この組み合わせが何年に来るかを、紙に書き出してみてください。「やっぱり重なる」と分かった時点で、不安の正体は半分減っています。

エクセルやノートに、横軸を年(2026年〜2040年まで)、縦軸を「子の年齢」「自分と配偶者の年齢」「親の年齢」「想定される支出」と置くだけで十分です。15年分を一覧にすると、お金が動く年とそうでない年がはっきり見えてきます。

兄弟姉妹で役割分担する

40代で親の介護が始まると、兄弟姉妹の関係も試されます。あらかじめ役割を決めておくと、揉めにくくなります。

「現金を出す人」と「時間を出す人」

役割は大きく2つに分かれます。

  • 現金担当: 親から遠くに住んでいる、または共働きで時間が取れない人。月額で介護費を仕送りする
  • 時間担当: 親の近くに住んでいる、または時間に融通が利く人。通院・買い物・介護サービスの調整を担当

このどちらも、家計や生活への負担という意味では同等です。「お金を出していないから貢献していない」「時間を使っていないから貢献していない」という議論は不毛なので、最初から「両方とも対等な負担」と決めておくと話が早いです。

LINEグループで情報共有

兄弟姉妹で介護専用のLINEグループを作っておくと便利です。

  • 親の通院記録・服薬状況
  • 介護費の支払い記録
  • ケアマネジャーとのやりとり
  • 兄弟それぞれの動き

これを残しておくと、「あの時誰がどう動いたか」が後で分かります。相続のときの揉めごとも、記録があると整理しやすくなります。

知っておきたい公的制度

40代で親の介護に備えるなら、最低限知っておきたい公的制度が4つあります。

1. 介護保険サービス

要介護認定を受けると、1割〜3割の自己負担で介護サービスが使えます。訪問介護、デイサービス、福祉用具のレンタル、住宅改修まで広くカバーされます。

まず最初にやることは、親の住む市区町村の窓口で要介護認定を申請することです。申請から認定まで約1か月かかります。

2. 高額介護サービス費

1か月の介護保険サービス費が一定額を超えると、超過分が払い戻される制度です。所得に応じて上限額が決まっていて、年金収入だけの親なら月の自己負担は1万5,000円程度に抑えられます。

申請しないと戻ってこないので、最初の介護費が出た時点で市区町村の窓口で手続きしてください。

3. 特別養護老人ホーム(特養)

原則として要介護3以上の方が入所できる公的施設です。所得に応じた減免があるため、年金収入だけの親でも月7万〜15万円程度で入所できます。

入所待ちがあることが多いので、要介護認定を受けた時点で複数の施設に申し込んでおくのが基本です。

4. 介護休業・介護休暇

働きながら介護をする場合に使える制度です。

  • 介護休業: 対象家族1人につき通算93日まで、3回に分けて取得可能。雇用保険から介護休業給付金(賃金の67%)が支給される
  • 介護休暇: 1年に5日(対象家族2人以上は10日)まで、半日単位で取得可能

ご自身が会社員なら、人事部に相談すれば利用できます。「介護で仕事を辞めるしかない」と思い詰める前に、まずこの2つの制度を確認してください。

よくある質問

Q1. 親の介護費は子が払うべきですか?

法律上、子には親を扶養する義務があります(民法877条)。ただしこれは、自分の生活を犠牲にしてまで親を扶養する義務ではありません。

晩産・晩婚夫婦のお金問題を専門にしているFPの実務では、「親のお金で親の介護」を原則とし、子が出すのは親のお金と公的制度で足りない部分に限る、という整理が一般的です。

Q2. 親に資産の話を聞きにくいです。どう切り出せばいいですか?

「私たちも老後の準備を始めたから、参考に教えて」と、自分の話から入るのがおすすめです。親を心配しているのではなく、自分の家計のために聞いている、というトーンが大事です。

紙とペンを用意して「メモさせて」と言うと、親も整理して話してくれます。

Q3. 兄弟姉妹で介護費を分担すると揉めそうです。

揉めにくくする一番のコツは、最初に役割を決めることです。「現金を出す人」と「時間を出す人」の2つに分けて、両方を対等な負担として扱うこと。LINEグループで動きを記録しておくと、後で「誰が何をしたか」が客観的に見えるので、トラブルが減ります。

Q4. 自分の老後資金がほぼゼロです。それでも親の介護を手伝えますか?

手伝うことはできます。ただし、現金を出すのは公的制度と親のお金を使い切ったあとです。それまでは、時間担当として通院や手続きをサポートする、というスタイルが現実的です。

ご自身の老後資金がゼロのまま親の介護に現金を投入すると、数年後にご自身が介護される側に回ったときに、お子さんに同じ問題が引き継がれます。

Q5. 40代でNISAを始めても、介護費に間に合いますか?

NISAは老後資金づくりのツールで、親の介護費を急いで作るためのものではありません。介護費は親のお金と公的制度で組み立て、NISAは「教育費が落ち着いた後の自分の老後資金」として長く育てる位置づけが現実的です。

詳しくは [50代からNISAは遅い?教育費ピークでも両立する優先順位](/blog/education-nisa-balance-20260515/) で整理しています。

まとめ:40代でこの整理ができれば、夜の不安は静かになる

40代の「親の介護」「自分の老後資金」「子どもの教育費」は、別々の不安に見えて、家計の上では1つの設計です。

整理する順番は、いつもこの3つです。

1. 親の介護は、親のお金で払うと決める 2. 親に「3つの数字」を聞いておく 3. 自分の老後資金は、教育費とは別の口座で守る

ここまで決めれば、夜にぐるぐる回っていた不安の輪郭がはっきりしてきます。

数字を出すのは怖いです。でも、出してしまえば、思っていたよりやれることが残っています。40代は、まだ動ける時期です。教育費ピークの前にこの整理を済ませておくと、その後の10年がだいぶ静かになります。

まだ毎月の収支が見えていない方は、先に [家計の見直しで最初に見る3つの数字](/blog/first-household-check-20260510/) を整理してから、親の介護と老後資金の組み立てに進むほうがスムーズです。